輝く月の夜に

青春トレンド小説

日常と音楽と生活の葛藤

小説 輝く月の夜に 4(雑踏の中の出会い)

あくる日、旭は聡史の所へ塗装の仕事を手伝いに行っていた。

一軒家の塗り替えの仕事だ、

ただ塗ればいいというわけでわなく、マスキングテープと養生ビニールでペンキの付いてはいけない所を綺麗に覆って行き、そこからやっと色を塗れる。

ローラーを規則正しく一定の方向に規則正しく転がしてはまた塗料をローラーにふくみ纏わせては次のサラの外壁に塗布して行く。


『アサヒィ、休憩しよかあ。』


聡史はアサヒに言った。


『ハーイ、切り付けたら降りてくわぁ』


聡史の所は10時と15時に30分づつしっかりと休憩を取ってくれる。


もちろん昼休憩も1時間しっかりとある。


聡史はすでに結婚していて五つ下の可愛い由香里と言う奥さんがいる。

休憩中はたあいもない話しやパチンコで勝った負けたの話やくだらないことを話している。


その日は聡史からノゾミと言うユカリの知り合いの女性を紹介してくれるとのことだった。


可愛い娘だったらいいなと旭は思った。

次の土曜日に居酒屋で聡史と由香里とノゾミと旭で飲み会で紹介してくれると言う。


あるは結構、期待して神さまにどうか素敵な彼女になってくれますようにと、心の中で祈った。


その日の仕事も無事に終わり、夜はヒサシとの曲作りが待っていた。


もちりろんウィードに火を灯しながら。


ウィードを吸うと頭が冴えてアイディアがどんどん湧いてくる。

サビはヒサシが考えてあるというものを聴いたら、かなりシブいパートが出来上がっていた。


サビは二人で重ねて歌うということで、あとは各々のバースを考えて、その日に8割がた曲が出来た。


旭がイベントのライブに立つのは三回目だ。トラックは有り物で何曲か候補を挙げて、おおかたトラックも決まった。


あとは歌い込んで曲を脳ミソに叩き込んで曲を暗記するだけだ。


自分達の家では大声で歌の練習をすると、近所迷惑になるのだが二人ともお構い無しに声を張り上げて練習している。


曲の内容はおきまりのガンジャネタだ。


結構面白みのある内容に仕上がった。


あとは『ジェイド』で講演する日にちまで歌い込んで仕上げる。ただ、それだけだ。


ライブが成功するといいなと誰しも音楽をやっている者は思う。


ヒサシと旭もまたその一人、いや、二人だった。




待ちに待った土曜日、聡史からオンナを紹介してもらう日が来た。


聡史と二人で先に居酒屋で15分くらい待っていると、遅れて聡史の奥さんのユカリとノゾミがやって来た。


『こんばんは、聡史の後輩のアサヒっていいます。』


ユカリの横に座ったノゾミに旭は言った。


『初めまして。由香里の昔、バイト先で一緒だったノゾミでーす。ヨロシクね』


ノゾミは愛嬌のある物言いで旭とノゾミは挨拶を交わした。


第一印象は悪くない。割とルックスもタイプな感じだった。


その日はいつにも増してお酒が進んだ。


旭たちは生ビール、ユカリとノゾミはカシスオレンジを飲んでいた。


会話には花が咲き、ノゾミの趣味はファッション、映画、以外なところで登山だという。


『ノゾミさん、今度、俺、アサヒと映画でも観に行こうよ。もし良かったらでいいんだけど。』


アサヒは女性には人見知りする方だがお酒の勢いもあってデートに誘った。


『うん。アサヒくんとだったら行って見たいな。今ちょうど見たい映画があるんだぁ。』


ノゾミは旭が思った以上に可愛い。笑った時の表情がとてもキュートだった。


ケータイの電話番号もしっかりと交換して、その日はお開きになった。


旭は数年間、彼女が居なかったので、久方ぶりに恋の予感がしていた。



つづく

小説 輝く月の夜に 3 (誘い誘われ)

どんな時代にもアウトローな生き方をする者には危険がつきまとう生活がある。

一匹狼で長距離トラックの運ちゃんにはシャブが無くてはやっていけない現実があったりする。

まあ、そのおかげで事故や居眠り運転からは無縁になってくる。 サービスエリアでトラックの運転手どうしがネタの売買のやり取りをしたりするのだ。


テツジは最近、トラックの長距離運転手の仕事をしていて、そんな世界に足を踏み込んでゆく事になる。


大のガンジャ好きのテツジがシャブに体を染めて行くと、高村正彦にも一緒にキメようかと話が回るのである。


別にシャブが悪いワケではない。アレをキメると他人に優しくなったり、何をするにも上手く行く気が湧いてくる。

ただし、シャブの成分は人のからだから一番に代謝されゆくのでそのときにキマッている時は良いものの効果の切れめにくるバッドトリップだけはゴメンだろう。切れめから逃れるようにまた炙ったり、注射を打ったりして中毒になってゆくのだ。精神が強い者には一概に皆そうであるともいいがたいのだが。


『もしもし、サトシだけど。旭なあ、テツジと高村、最近シャブやっとるらしいから、誘われても気をつけた方がいいと思うんだわぁ。オレんトコにも話がまわって来たもんでさあ。明日から三日くらい仕事手伝いに来てくれんかなあ。』


『シャブ?サトシくんホントは興味あるんじゃねーの?まあ、断るようにするしガンジャもまだみんなやるっしょ、テツジくんにしても。じゃあ、仕事ヨロシクね、センパイ。』


日当14000円で月に15日ほど旭は聡史の所に手伝いに行き、20万円前後稼げば旭は何とか生活がやって行ける。


ガンジャも名古屋のテレビ塔と言う場所付近でイラン人を探して引いて来ればブツは簡単に手に入る。

昔はテレビ塔沿いのセントラルパークの通りの道路沿いにイラン人が立っていて、通り行く自動車に『ナニホシィ?』と声をかける光景はいい意味でも悪い意味でも名物だった。


今は無き過去の話は置いておいて旭がシャバに帰って来たのは11月。今はもう12月初頭、クリスマス、年末が近づいて来ている。



テツジも高村も相当なジャンキーで、来年の4月くらいに種からロックウールである程度まで育てて山へ植林するまでのんびりと育てる環境の整備をしていくつもりだ。体にはケミカルな物質が体内にめぐってはいるのだが。



年末にクラブ『ジェイド』でレゲエのイベントに参加する予定の旭はカラオケに行ってジャパレゲの適当な曲を入れて、マブダチのヒサシと共にラバダブの練習をしていた。


ヒサシは同級生で中学の三年生の時、同じクラスだった。


ヒサシの方はレゲエのイベントに毎週出ていて『ジェイド』の話を旭に誘ったのもヒサシだった。


ヒサシが 『なあ、アサヒ。一曲オレとコンビネーション作ろうよ。サビはもうオレ考えてあんだよね。もし、よかったらでいいからさ。』

と、旭に面白みのある話を振った。


旭は『全然、オッケーだね。一曲作って見ようよ。』

と、ヒサシに即答で答えた。



年末のイベントは年越しライブであって、今は12月の3日。曲もトラック決めから作詞まで十分に時間はある。


ヒサシは倉庫でリフトを使った仕事をしていて、いつもウィードを切らさずに持っていて、旭ともよく日を灯す間柄だった。


今夜は月が暗闇のなか星達とワルツを踊っている。


年末のイベントに向けて旭は黙々と日夜を過ごしていた。こんな夜に灯すウィードは、また格別に美味しかった。





米 ラバダブ


インスト(トラック)をセレクター(DJ)が回して

一本のマイクをdeejay(ラッパー)数人が奪い合い歌いあう催し。

つづく

小説 輝く月の夜に 2 (夢のある計画)

シャバに帰って来た旭には仕事が無い。

先輩達から仕事の話を聞いても、夜のネオン街の客引き、キャバクラのボーイ、人材派遣の人夫、どれも光が射す内容の物の話は入って来なかった。 唯一、入管される前まで店の入れ替わりは多かったが長く続けられたペンキ塗りの仕事に戻ろうかと考えていた。

『もしもし、サトシ先輩?オレの事、サトシくんのペンキ屋んトコで使ってもらえないですか。』

と、旭は中学校の時の二つ上の上島聡史のトコロへ電話を一本入ると、サトシは

『俺のトコロも今、手一杯なんだわぁ、スポットで手が欲しい時だけでもいいなら使ってもいいけどね。』と、サトシは言った。それに続き、

『タカムラやテツジの事もあるじゃんねえ、アイツら使ってからもう知り合いは使わんって決めたんだけどアサヒならイイよ。』

聡史は二つ返事で了承してくれた。


高村正彦は一つ上のパチンコ好きの一歳年上で、また同じ中学校、つまり同中の先輩だ。

清川テツジも同中の二つ上、聡史とは同級生だ。

二人共チャランポランを絵に描いた様な性格でこの辺りの面子は、皆、煙り香るウィードの愛好者達だ。


『高村くんもテツジくんも最近、何やっとんのぉ?』旭は聡史に訊ねた。

『相変わらずバカな事やっとんじゃねーの?』


『ハハハッ、そうだろうよねえ、何か悪い事でも無けりゃあいいんだけどね。』


旭は聡史とはわりと気が合って、聡史も旭には親身になって色々と話を聞いてくれたりする。


とりあえず旭は塗装の仕事をする合間、レゲエDEEJAYと云うジャパニーズレゲエの誰も知らないアンダーグラウンドのトコからマイク持ちでCDをリリースして有名になるという夢を追いかける事を目標に生活するんだと、イマイチ没頭する事がなくただ毎日をすり減らす日々から抜け出す術を得た。



その頃、正彦とテツジは、山奥でグローイング、つまり、大麻の栽培をする計画を練っていた。


『なあ高村、例のあの山のあそこのガードレールから入って行ったトコ、あそこにしようぜ。』


テツジは高村に言った。



『やっぱりアソコしか無いよねぇ。でもかなり歩いていかないといけないけど、入って行った所の草、ひととおり引っこ抜いて、土と鶏糞ホームセンターで用意するのも結構な仕事だよテッチャン。』


高村は面倒くさいとは言えずにテツジにそう言った。


『でも、栽培に成功すれば吸うのにも困らんし、知り合いに捌けば多少なりともカネになるんじゃねーの?』


テツジは高村にそううながした。



旭が出所してきて希望を見いだした頃、バカな二人の先輩は頭が良いのか悪いのか、そんな計画を立てていた。


つづく