小説 輝く月の夜に 3 (誘い誘われ)
どんな時代にもアウトローな生き方をする者には危険がつきまとう生活がある。
一匹狼で長距離トラックの運ちゃんにはシャブが無くてはやっていけない現実があったりする。
まあ、そのおかげで事故や居眠り運転からは無縁になってくる。 サービスエリアでトラックの運転手どうしがネタの売買のやり取りをしたりするのだ。
テツジは最近、トラックの長距離運転手の仕事をしていて、そんな世界に足を踏み込んでゆく事になる。
大のガンジャ好きのテツジがシャブに体を染めて行くと、高村正彦にも一緒にキメようかと話が回るのである。
別にシャブが悪いワケではない。アレをキメると他人に優しくなったり、何をするにも上手く行く気が湧いてくる。
ただし、シャブの成分は人のからだから一番に代謝されゆくのでそのときにキマッている時は良いものの効果の切れめにくるバッドトリップだけはゴメンだろう。切れめから逃れるようにまた炙ったり、注射を打ったりして中毒になってゆくのだ。精神が強い者には一概に皆そうであるともいいがたいのだが。
『もしもし、サトシだけど。旭なあ、テツジと高村、最近シャブやっとるらしいから、誘われても気をつけた方がいいと思うんだわぁ。オレんトコにも話がまわって来たもんでさあ。明日から三日くらい仕事手伝いに来てくれんかなあ。』
『シャブ?サトシくんホントは興味あるんじゃねーの?まあ、断るようにするしガンジャもまだみんなやるっしょ、テツジくんにしても。じゃあ、仕事ヨロシクね、センパイ。』
日当14000円で月に15日ほど旭は聡史の所に手伝いに行き、20万円前後稼げば旭は何とか生活がやって行ける。
ガンジャも名古屋のテレビ塔と言う場所付近でイラン人を探して引いて来ればブツは簡単に手に入る。
昔はテレビ塔沿いのセントラルパークの通りの道路沿いにイラン人が立っていて、通り行く自動車に『ナニホシィ?』と声をかける光景はいい意味でも悪い意味でも名物だった。
今は無き過去の話は置いておいて旭がシャバに帰って来たのは11月。今はもう12月初頭、クリスマス、年末が近づいて来ている。
テツジも高村も相当なジャンキーで、来年の4月くらいに種からロックウールである程度まで育てて山へ植林するまでのんびりと育てる環境の整備をしていくつもりだ。体にはケミカルな物質が体内にめぐってはいるのだが。
年末にクラブ『ジェイド』でレゲエのイベントに参加する予定の旭はカラオケに行ってジャパレゲの適当な曲を入れて、マブダチのヒサシと共にラバダブの練習をしていた。
ヒサシは同級生で中学の三年生の時、同じクラスだった。
ヒサシの方はレゲエのイベントに毎週出ていて『ジェイド』の話を旭に誘ったのもヒサシだった。
ヒサシが 『なあ、アサヒ。一曲オレとコンビネーション作ろうよ。サビはもうオレ考えてあんだよね。もし、よかったらでいいからさ。』
と、旭に面白みのある話を振った。
旭は『全然、オッケーだね。一曲作って見ようよ。』
と、ヒサシに即答で答えた。
年末のイベントは年越しライブであって、今は12月の3日。曲もトラック決めから作詞まで十分に時間はある。
ヒサシは倉庫でリフトを使った仕事をしていて、いつもウィードを切らさずに持っていて、旭ともよく日を灯す間柄だった。
今夜は月が暗闇のなか星達とワルツを踊っている。
年末のイベントに向けて旭は黙々と日夜を過ごしていた。こんな夜に灯すウィードは、また格別に美味しかった。
米 ラバダブ
インスト(トラック)をセレクター(DJ)が回して
一本のマイクをdeejay(ラッパー)数人が奪い合い歌いあう催し。
つづく
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