小説 輝く月の夜に 2 (夢のある計画)
シャバに帰って来た旭には仕事が無い。
先輩達から仕事の話を聞いても、夜のネオン街の客引き、キャバクラのボーイ、人材派遣の人夫、どれも光が射す内容の物の話は入って来なかった。 唯一、入管される前まで店の入れ替わりは多かったが長く続けられたペンキ塗りの仕事に戻ろうかと考えていた。
『もしもし、サトシ先輩?オレの事、サトシくんのペンキ屋んトコで使ってもらえないですか。』
と、旭は中学校の時の二つ上の上島聡史のトコロへ電話を一本入ると、サトシは
『俺のトコロも今、手一杯なんだわぁ、スポットで手が欲しい時だけでもいいなら使ってもいいけどね。』と、サトシは言った。それに続き、
『タカムラやテツジの事もあるじゃんねえ、アイツら使ってからもう知り合いは使わんって決めたんだけどアサヒならイイよ。』
聡史は二つ返事で了承してくれた。
高村正彦は一つ上のパチンコ好きの一歳年上で、また同じ中学校、つまり同中の先輩だ。
清川テツジも同中の二つ上、聡史とは同級生だ。
二人共チャランポランを絵に描いた様な性格でこの辺りの面子は、皆、煙り香るウィードの愛好者達だ。
『高村くんもテツジくんも最近、何やっとんのぉ?』旭は聡史に訊ねた。
『相変わらずバカな事やっとんじゃねーの?』
『ハハハッ、そうだろうよねえ、何か悪い事でも無けりゃあいいんだけどね。』
旭は聡史とはわりと気が合って、聡史も旭には親身になって色々と話を聞いてくれたりする。
とりあえず旭は塗装の仕事をする合間、レゲエDEEJAYと云うジャパニーズレゲエの誰も知らないアンダーグラウンドのトコからマイク持ちでCDをリリースして有名になるという夢を追いかける事を目標に生活するんだと、イマイチ没頭する事がなくただ毎日をすり減らす日々から抜け出す術を得た。
その頃、正彦とテツジは、山奥でグローイング、つまり、大麻の栽培をする計画を練っていた。
『なあ高村、例のあの山のあそこのガードレールから入って行ったトコ、あそこにしようぜ。』
テツジは高村に言った。
『やっぱりアソコしか無いよねぇ。でもかなり歩いていかないといけないけど、入って行った所の草、ひととおり引っこ抜いて、土と鶏糞ホームセンターで用意するのも結構な仕事だよテッチャン。』
高村は面倒くさいとは言えずにテツジにそう言った。
『でも、栽培に成功すれば吸うのにも困らんし、知り合いに捌けば多少なりともカネになるんじゃねーの?』
テツジは高村にそううながした。
旭が出所してきて希望を見いだした頃、バカな二人の先輩は頭が良いのか悪いのか、そんな計画を立てていた。
つづく
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。